約 3,520,824 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/27.html
焼炉の適切な使用について ブラック・マーシュに住むアルゴニアの錬金術師は、長い間月の相が焼炉の正確な位置決めに影響を与えるという説を唱えていた。満月の間は焼炉を南に向け、南十字星と同調させる必要がある。南十字星が正確な南の位置よりややずれていることは周知の事実だ。この勤勉なる錬金術師は星図を参照して、特定の日時にはより正確に焼炉を配置するのだろう。 満月の後の各夜の相に対しては、焼炉を時計回しに28分の1ずつ回転させていく。もし北の姉妹星よりも南十字星に近づけすぎていたら、彼は焼炉を反時計回しに回転させねばならない。この装置は月夜に半分が照らされる場所に設置する必要がある。もちろん、新月の時は焼炉の全体が新月にさらされることになる。 焼炉を正確に配置すると、より純度の高い蒸留液47種のうちの一部を作り出す可能性がある。その効果は明らかではないが、これは非常に素晴らしい特性である。 茶3 魔法学・薬学
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/173.html
2920 星霜の月(12巻) 第一紀 最後の年 カルロヴァック・タウンウェイ 著 2920 星霜の月1日 バルモラ (モロウウィンド) 窓に凍りついたクモの巣の隙間から冬の朝の光が差し込み、アルマレクシアは目を覚ました。老齢の治癒師は安堵の笑みを浮かべて、濡れた布で彼女の頭を拭いた。彼女のベッドの脇の椅子ではヴィヴェックが眠りこけていた。治癒師はキャビネットから急いで水差しを取ってきた。 「ご気分はいかがですかな?」と治癒師は尋ねた。 「とても長い間眠っていたようです」とアルマレクシアは答えた。 「仰るとおり、実に15日間も眠られていましたよ」と治癒師は言い、そばにいるヴィヴェックの腕を揺り動かした。「起きてください。アルマレクシア様が目覚められましたよ」 ヴィヴェックは跳ね起き、アルマレクシアが目覚めたのを確認するやいなや顔が嬉しさでほころんだ。ヴィヴェックは彼女の額にキスをし、手を取った。少なくとも、彼女の体は温かさを取り戻していた。 しかし、アルマレクシアの穏やかな休息は終わった。「ソーサ・シルは……」 「彼も無事だ」とヴィヴェックは答えた。「またどこかで機械をいじってるさ。先ほどまでここで一緒に心配していたが、彼はあの一風変わった魔術で君にしてやれることがあると気付いたんだ」 そこへ城主が戸口に現れ、「お邪魔をしてしまい申し訳ございません。早急にお耳に入れたいことがございます。昨夜、帝都に向けてお送りした伝令の件で」と言った。 「伝令?」とアルマレクシアは尋ねた。「ヴィヴェック、何が起きたのです?」 「6日に皇帝と停戦協定を結ぶ約束だったのだが、延期を申し込んだのだ」 「あなたはここにいてはいけません」とアルマレクシアは言い、自力でなんとか起き上がろうとした。「あなたが今協定を結ばなければモロウウィンドは再び戦火の渦に巻き込まれ、平和を取り戻すのにさらにもう80年かかるかもしれません。お供を連れて今すぐここを発てば1、2日遅れるだけで済みます」 「本当にあなたはもう大丈夫なのか?」とヴィヴェックは尋ねた。 「今あなたを必要としてるのは、私ではなくモロウウィンドです」 2920 星霜の月6日 帝都 (シロディール) 皇帝レマン三世は玉座に腰掛け、謁見室を見渡していた。それは豪華な眺めであった。垂木からぶら下がる銀の飾り紐、四隅には香草の焚かれる大釜が置かれ、ピアンドニアのチョウが歌うように宙を舞っていた。松明に火が点され、使用人たちが一斉に火に向かって扇をはたき始めると、この部屋がきらめく夢の世界へと変わるようであった。そうこうしているうちに厨房の方からおいしそうな香りが漂って来た。 支配者ヴェルシデュ・シャイエとその息子、サヴィリエン・チョラックは謁見室へそっと滑り込んできた。2人ともツァエシの頭飾りや宝石で着飾っていた。その黄金に輝く顔に笑みはなかった。もっとも、それはいつものことだったが。皇帝はこの信頼できる相談相手に嬉しそうに挨拶の言葉をかけた。 「野蛮なダークエルフたちもこれには驚くであろう」と皇帝は笑っていった。「お客はいつ到着するのだ?」 「ヴィヴェックからの伝令が先ほど到着いたしました」とシャイエは厳かに答えた。「陛下お一人でお会いするのがよいかと」 皇帝の顔から笑みが消え、使用人たちに下がるよう命じた。扉が開き、コルダが羊皮紙を片手に部屋に入ってきた。彼女は後ろ手で扉を閉め、皇帝と目を合わせようとしなかった。 「伝令は手紙をそなたに渡したのか?」とレマンは疑わしい口調で言い、椅子から立ち上がり手紙に手を伸ばした。「この受け渡し方は極めて非礼であろう」 「ですが、手紙の内容は実に礼儀正しいものでしたよ」とコルダは皇帝の神の目を見つめて答えた。瞬きする暇もなく、彼女は手紙を皇帝の顎へと突きつけた。突きつけられた手紙に視線を落とし皇帝は怒りに顔を歪ませた。そこにはただ小さな黒い刻印が書かれてあった。それはモラグ・トングの刻印だったのだ。次の瞬間、手紙は床に落ち、その陰に隠されたダガーが姿を現した。コルダは腕をひねって、皇帝の喉仏を骨まで切り裂いた。皇帝は音もなく静かに倒れこんだ。 「どれぐらいの時間が必要だ?」とサヴィリエン・チョラックが尋ねた。 「5分ね」とコルダは手に付いた血をぬぐいながら答えた。「10分くれればその分ありがたいわ」 「わかった」謁見室から走り去ろうとするコルダの背に向かってヴェルシデュ・シャイエがそう答えた。「彼女みたいな人物がアカヴィルであればよかった。女性で剣の腕がたつとは実に稀有な存在だ」 「私はアリバイ作りに行ってきます」とサヴィリエン・チョラックは言い残し、皇帝の側近でしか知り得ない秘密の通路へと消えていった。 「1年前の事を覚えていらっしゃいますか、陛下」と、ヴェルシデュ・シャイエは笑顔で瀕死の皇帝を見下ろしながら問いかけた。「私に向かって『そなたらアカヴィルの動きは派手派手しい。しかし、我々の攻撃が一度でも当たれば、そなたもおしまいだ』とおっしゃいましたが、陛下こそ、このお言葉を覚えておくべきでしたね」 皇帝は血の塊を吐くのと同時にこうもらした。「この蛇め」 「いかにも私は表も裏も蛇でございます、陛下。しかし、嘘はついておりません。ヴィヴェックからの伝令は届いております。どうやら到着が遅れるそうです」と言ってヴェルシデュ・シャイエは肩をすくめながら秘密の通路へと消えていった。「ご心配なさらず。食事の管理は私にお任せを」 タムリエルの皇帝はこの豪華に飾られた謁見の間で自らの血溜まりに溺れていった。衛兵が彼を見つけたのはその15分後のことであった。その頃コルダは姿形もなく消え去っていた。 2920 星霜の月8日 カエル・スヴィオ (シロディール) ヴィヴェックとその連れが到着した際、一番最初に挨拶をした密使はグラヴィアス卿で、彼は森を通ってくる道のひどさをやたらと詫びた。邸宅を囲む葉の落ちた木々には燃える球の飾りが幾重にもつけられており、冷たい夜風に優しく揺れていた。邸宅の方からささやかな祝宴の料理のにおいが漂い、高音の悲しい調べが聞こえてきた。それはアカヴィルの伝統的な冬の祝歌であった。 ヴェルシデュ・シャイエは正面扉のところでヴィヴェックに挨拶した。 「あなたが帝都へ来られる前に伝令を受け取れたのは良かった」と言ってヴェルシデュ・シャイエはヴィヴェックを広く暖かい客間へと案内した。「我々は今厳しい時代、いわば過渡期におります。当面は、議事堂での職務は控えることにしました」 「王位後継者の方はいらっしゃらないのですか?」とヴィヴェックは尋ねた。 「公式にはいらっしゃいません。玉座を狙う遠戚の方は大勢おられますが。ともかく、当分の公式行事は、私が先の主の代わりに務めることを貴族の方々にはご了解いただいております」そう言って支配者ヴェルシデュ・シャイエは使用人に2脚のゆったりとした椅子を暖炉の前に運ぶよう指示した。「今すぐこちらで協定を結んだほうがよろしいですか? もしくは先にお食事でも?」 「あなたは先帝の協定をそのままお引継ぎになられるのですか?」 「私はすべてを皇帝と同じように執り行うつもりでおります」とヴェルシデュ・シャイエは答えた。 2920 星霜の月14日 テル・アルーン (モロウウィンド) 道中で土ぼこりにまみれたコルダは夜母の腕に飛び込んだ。しばらくの間2人はしかと抱き合い、夜母は娘の髪を優しくなでつけ、額にキスした。そして袖から一通の手紙を取り出し、コルダに渡した。 「これは?」とコルダは聞いた。 「支配者ヴェルシデュ・シャイエからのお礼の手紙よ」と夜母は答えた。「彼は今回の暗殺の支払いをすると言ってきたのだけれど、もう返事は送ったの。皇后様から皇帝暗殺の報酬は十分にいただいたもの。必要以上の強欲はメファーラが許しませんからね。同じ暗殺の報酬を2度受け取る必要はない、と返したわ」 「皇帝はリッジャを殺したわ」とコルダは静かに言った。 「だからこの暗殺はあなたがやるべきだったのよ」 「これからあたしはどこへ行ったらいいの?」 「有名になりすぎて聖戦を続けられなくなった聖者は、ヴヌーラと呼ばれる島へ行くことになっています。ボートで1ヶ月かそこらの旅ですよ。その聖域であなたが優雅な日々を暮らせるよう手はずは整えておきました」夜母は娘のこぼれる涙にキスをし、「そこでたくさんのお友達ができますよ。永遠に平和で暮らせますよ」と言った。 2920 星霜の月19日 モーンホールド (モロウウィンド) アルマレクシアは再建されていく街並を見て回っていた。黒こげに焼け落ちた古き建物の上に新たな骨組みを組む中を歩きながら、彼女は「ここの市民の志には実に心を打たれる」と思った。かつて街道沿いに並木を作ったコムベリーとルーブラッシュの低木は、しなびてはいたがかろうじて生命をつないでいた。アルマレクシアは鼓動を感じた。春が訪れる頃には緑が黒を追いやっているだろう。 デュークの後継者である、高い知能と不屈のダンマーの勇気を兼ね備えた1人の青年が、北方より父親の領地へと向かっていた。この地は存続するだけではなく、力を備え、広がりを見せるであろう。アルマレクシアは今見ているものより、未来を思って心強く感じた。 彼女が唯一確信したことは、この地モーンホールドが少なくとも一人の女神の永遠の故郷であると思っているということだ。 2920 星霜の月22日 帝都 (シロディール) 「シロディールの血筋は途絶えた」とヴェルシデュ・シャイエは帝都宮殿の伝えし者のバルコニー下に集まった大衆に向け発表した。「しかし、帝都はこれからも生き続ける。信頼のおける諸貴族たちは、次期王位にはこれまで長く受け継がれてきた皇族の遠戚たちの中に相応しいものがいないと判断した。よって、先帝レマン三世から最も信頼されたこの私が、先帝の意思と職務を引き継ぐことなる」 このアカヴィルはそこで一呼吸置き、自分の発した言葉が大衆に理解されるのを待った。だが、大衆はただ彼を無言のまま見上げるだけだった。雨が街の道という道を洗い流したが、ほんのわずかな間、冬の嵐を小休止させるように太陽が顔を出した。 ヴェルシデュ・シャイエは続けて「私が帝位を受け継ごうとしているのではないことをわかっていただきたい。私はこれからも支配者ヴェルシデュ・シャイエとしてここに立つが、あなた方にとっては1人の外国人にすぎない。だがしかし、新たな後継者が出現するまで、私はこの第二の祖国を守り通すことをここに誓う。そこで早速、最初の仕事として、この歴史的に記念すべき日を称え、本日を暁星の月、第一日目と定め、第二紀の始まりであることをここに宣言する。まず先帝の喪失を悼み、そして未来に期待しよう」と言った。 この言葉に拍手を送ったのはたった1人だけだった。その1人とはセンチャルのドローゼル王であり、彼は今日このタムリエルの地に華々しいスタートが切られたことを信じきっていた。もちろん、この時彼は完全におかしくなっていた。 2920 星霜の月31日 エボンハート (モロウウィンド) ソーサ・シルが、彼の不思議な機械で未来を作り出した都市の下に横たわる煙たい地下墓地で、思いがけないことが起こった。今まで壊れることのなかった歯車の間から油性の泡が吹きこぼれていた。ソーサ・シルはすぐそれに気付き、泡を発生させているチェーンを調べた。パイプが左に半インチずれてしまい、かみ合わせが1ヶ所外れてしまっていた。コイルも巻き戻り、反対方向へと回り始めていた。1000年もの間ただの一度も壊れることなく左から右へと動いていたピストンが、突然右から左へと逆方向へ動き出した。どこも壊れてはいないが、すべてが変わってしまった。 「すぐには直りそうにないな」と妖術師は静かに言った。 天井の隙間から夜空を見上げた。真夜中であった。こうして第二紀は混乱のスタートを切ったのであった。 物語(歴史小説) 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/102.html
ペリナルの歌 第4巻:その功績 [編者注:1巻から6巻に収められた文章は、帝都図書館所蔵のいわゆるレマン文書から採られたものである。この文書は、第二紀初期に無名の研究者によって集められたもので、古代文書の断章の写しからなる。古代文書のそもそもの出所は不明であり、いくつかの断章は同時期に書かれた(同じ文書からの断章という可能性もある)ものと考えられている。しかし、6つの断章の成立時期に関する学術的な合意は得られておらず、ここでもその断定は避ける。] (ペリナルは)妖術師の軍隊をニベンより追い払い、東の土地全てをパラヴァニアの反乱軍のものにした。カイネは人間たちがそこで進軍のための陣をはれるよう、雨を降らせて村やアイレイドの旗が降ろされた砦から血を洗い流さなければならなかった。(それから)ペリナルはヴァータシェの扉を壊し囚人たちを解き放った。このとき、モーリアウスに乗った奴隷の女王が頭上を飛び、人間たちは彼女を初めてアレ=シュと呼んだ。彼はまた…… の門を抜け、その夜アイレイドに盗まれたセドール(今では誰も知らないが、当時は名高い部族であった)の千の精鋭の手を取り戻した。二千の手を魔族の骨で作られた荷車に載せると、荷車は女の悲痛な叫びのような音をたててきしんだ。 ……(文章欠落)…… クリーズ族の北方における勢力を強化した最初の大虐殺(の後)、彼は白い髪をエルフの血で茶色く染めてヘルドン橋に立ち、ペリフの鷹匠に導かれてきたノルドたちはその姿を見てショールの再来と恐れおののいたが、ペリナルはその名前を冒涜するかわりに彼らの足元に唾を吐きかけた。それでもとにかくペリナルは彼らを率いて西の大陸へ進み、アイレイド達を白金の塔の方角へと追い詰めていった。アイレイド達は突然自由になった人間たちの勢いと、この激しさがどこからもたらされたものなのかを理解できぬまま後退を余儀なくされていた。ペリナルは、ウマリルが反逆者の進軍を止めようと放つサンダーナックをメイスで砕き、「カイネの息吹」モーリアウスがくちばしの矢の一斉射撃で傷ついたときは、彼を賢しきツアサス(ケプチュの名を持つガネード)のもとまで運び治療させた。スキフ評議会において、パラヴァニアの兵士やノルドたちが白金の強襲に怯え、アレ=シュすらも決闘の延期を勧める中、ペリナルは激高し、考えなしに突き動かされてウマリルを罵り、まわりの臆病者たちを罵り、自力で白金の塔へ赴いた。 ダンジョン 歴史・伝記 赤1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/77.html
神秘論 計り知れぬ旅 テトロニウス・ロル 著 神秘とは魔術を用いる者たちの間で理解の度合いが最も低く、見習い魔術師に説明するのが最も困難な魔術の系統である。一般的に神秘に属するとされる呪文効果は、死亡後に犠牲者の魂を封じ込める魔法的な容器を作り出す魂縛の呪文から、物体を遠隔操作できる念力の呪文まで非常に多岐に渡る。しかしこれらの効果はあくまでも呪文の結果に過ぎず、それらを引き起こす魔法的機序はタムリエル最古の文明、はたまたそれ以前にさえもさかのぼる謎とされているのである。 アルテウム島のサイジックたちは神秘を「古き法」と称している。この呼称はサイジックたちの宗教や慣わしなどをも意味するため、言葉的な意味を論じてしまうと語義論的な泥沼は不可避であり、宗教や慣習が魔術としての神秘の一部であるのかどうかも定かではない。 神秘の研究に生涯を捧げる魔術師は数少ない。他の系統の魔術の方が遥かに予測しやすく、究明しやすいからである。神秘はその難問および逆説こそを力の源としているようであり、いかに客観的な実験を実施しようとも、実験そのものの存在がマジカに影響を与えてしまうのである。よって神秘を扱う魔術師は、乱雑な魔力のうねりの中から信頼に値する法則性を見いだすことに甘んじる必要がある。神秘師が安定した発動機序と効果をもつ呪文を一つ編み出すのに要する時間で、他の系統の術師たちは十数種類の新たな呪文や効果を研究し、記録してしまいうる。よって神秘師たる者とは、根気が強く比較的競争心を欠いた哲学者でなければならないのである。 何世紀もの間、特に第二紀においては、神秘という名の元に一緒くたにされた魔術の諸要素に関する学説が各学術誌に続々と発表された。万物に答えを見いだそうとする魔術師ギルドの伝統に乗っ取り、名のある研究者たちが神秘の根源的な力源はエセリウスそのものであるか、あるいは想像を絶する強大な力を秘めたデイドラ的存在であろうと提唱した。どちらの説でも神秘がもつとされる乱雑性を説明できると考えられたのである。神秘が発動に成功、もしくは失敗した呪文の残留要素に由来するとさえ唱える者も登場した。アルテウムが再び出現した後のサイジック会内での議論に基づき、一部の学者は神秘が当初想定されていたよりも遥かに精霊的側面が小さく、信者の知性もしくは情動だけで魔力の構造や流れやに影響を与えうるのだと提唱した。 しかし、これらの個々の説のみでは満足のいく説明は得られない。神秘の探求を志す学徒にとっては、ここ数百年分の混沌の中から見いだされる典型的な傾向をおぼえてしまうのが最適と思われる。認識される模様の数が増えれば増えるほど、残りのものがより明白になっていくからである。もっともそれも、肝心の模様が変化するまでの話で、そのような変化は遅かれ早かれ訪れるのである。こうして再び探求の旅が始まるのである。 緑1 魔法学・薬学
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/128.html
シヴァリング・アイルズ薬物総覧 シンダ・アマティウス 著 シヴァリング・アイルズには多種多様なものがある。 湿っているもの、乾いているもの。植物からとれたもの、動物からとれたもの、石、空、木、人間、メルからとれたもの。 とても多くの美しいものが薬に使用される。そこにあるそれらすべてが引き抜かれて活用されるのを待っている。「私をすりつぶして! エキスを取って何か新しいもの、何か素敵なものに変えて!」と、それらが私に訴える。 私はとても多くのタムリエルの驚くべきものの発見に人生を捧げてきて、今では未来に待ち受けるものの発見に人生を捧げている。危険で手招きしているマッドゴッドの領域には、興奮で震えてしまうほど多くの新しいものがある。今後、調べたり、調合したり、探し出す時に忘れていないように、私は立ち止まって発見したことを覚え書きに残す。 見習いはシャンブルズの骨髄とスケイロンのヒレを混ぜると、摂取した者の体力を奪い、心臓に打撃を与える猛毒ができることを知るだろう。多くの刀を湿った肉と乾いた骨に浸して馴染ませたが、発見が私を満足させるのだ。 炎の柄と肉体の精霊のエキスは素人でも調合できて、その薬を飲むと再び健康になり、痛みに対抗することができる。熟練者であれば歩行する巨大モンスターに対して自分自身を危険にさらすよりは、叫ぶ口を使えると気づくだろう。 マジカが必要なら(マジカ不要なわけがないが)、エリトラのイコルは素人によってウィザリング・ムーンと調合されるか、熟練者によって茨のフックと調合されるだろう。シヴァリング・アイルズにいる探険家であれば必ずこれらを見つけようと勇んで出かけるはずである。 ハンガーの舌── それ自体生体構造の脅威── は食べると解毒効果があり、ウィザリング・ムーンと調合すると病気を治すことができる。(私にはハンガーに命をかけなければいけないほどのひどい病気があるのか疑問が残るが……) 熟練した錬金術師が腐敗の鱗とワームズ・ヘッドのかさのかさを調合すると敵を麻痺させることができるのを知って私はとても喜んだ。これはアイルズにいるあまり思いやりのない奴らから材料を手に入れるのにはとても役に立つだろう。 SI 赤1 魔法学・薬学
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/181.html
苦痛の典礼:ヴェクシス・ヴェルルアンの文書集 アニアス・ゲールによる書き写し 親愛なる読者へ。今君が手にしているのは、痛みと、苦しみと、発見についての書だ。この回顧録を通じて私は、愚か者の自叙伝と、偉大なる力を勝ち取ろうとして失敗した試みについて、君に伝えようと思う。礼節の束縛を断ち、古代の神秘的な法の拘束を打ち破り、魔法倫理の束縛をはねのけてあげるから、一緒に歩いてみたまえ。この中で君が目にするのは、ヴェクシス・ヴェルルアンの臨終の言葉なのだから。 忠実なる読者よ、まず知ってもらいたいのは、最期の瞬間まで私がマジカの生徒であり続けたということだ。とはいえ、典型的な弟子ではなかった。マジカの仕組みをより深く理解するための独自の道を築いたのだ。破壊魔法の苦痛を自身の肉体に与えることを通じて、私は自分より先に存在したどの生徒よりも多くのことを成し遂げることができた。 その愚行ゆえにこそ、いつもどおりの明快さを保ち、能力を万全に働かせ、探求の過程で犠牲にした物のことを強く意識しながら、私はこうして君に語りかけることになったのだ。ものすごい苦痛以外の肉体的感覚を感じる能力を私が失ってしまったのは、もうかなり昔のことだ。私はあまりにもその状態に慣れ、通常の感覚から切り離されてしまったため、とにかく苦痛という物が常にそこにあるのが当たり前になってしまった。君だって、周囲に空気がある状態を一つの感覚として捉えたりはしないだろう? いかにしてこのようになり得たのかと、君は尋ねるだろうか? 最初は全く無邪気なものだった。私はかつて治癒師であり、寺院の中で最も有望な生徒だったのだ。どの寺院かって? それは関係ない。結局、私は追放されたのだから。あの愚か者どもめ。当時、我々の質素な聖域には、レッド・フィーヴァーに感染して埋葬された患者がたくさんいた。魔法の技を用いて病気が自滅するようにし向けるという私の試みは、初期の段階において、失敗に終わった。治療法を見つけようとしたがゆえに、私は追い出されてしまったのだ。 追放されて間もなく、マジカの破壊的なエネルギーを用いて伝染病を根絶する方法を私は発見した。破壊派の探求を進めるうち、自分の身体を通じて元素エネルギーを引き出すことにより、エネルギーの出力を増大させられることも発見した。稲妻が身体を通り抜けた時の経験から、私はマジカがもつ力をより深く理解することができたのだ。 最初は、痛みに耐えることはできなかった。そのため、微量のエネルギーだけを自分に向けて戻すようにしていた。やがて、破壊と回復のエネルギーを結合させる方法を覚えた。それにより身体へのダメージは減少できたが、傷みそのものは全く変わらなかった。 痛みに対する耐性が増すに連れ、身体にエネルギーを通す回数をどんどん増やしていった。やがて、破壊に関する理解のほうが、回復の知識を上回るようになった。ダメージを減らすことはできたものの、やはり無くすことはできなかった。肌は焦げ始め、黒ずみ、乾き、はがれ、ひび割れた。私の身体は、調理した肉のような匂いがしていた。それでも、さらなるエネルギーに惹かれる気持ちに抗うことはできなかった。 私は、たちの悪いスクゥーマ常習者のようになっていた。実用的な目的で魔法を用いることはもう一切なかった。ただひたすら、さらなるエネルギーだけを求めていたのだ。私は痛みを享受していた。エネルギーと痛みが一つになって私に押し寄せ、肉を凍結させたり、感覚がなくなるほど焦がしてくれる瞬間を心待ちにしていた。私の肌は、傷跡と、ただれと、損傷と、火傷だらけになっていた。それでも決して十分ではなかった。決して。まだ欲しかった。さらなる痛みが。さらなる力が。 私は視力を失った。両目は溶けて煮えたぎる硝子体液となり、まるで炎の涙が流れたかのように火傷の跡を顔に刻みながら、流れ落ちていった。右手は固く凍結してしまい、そのことに改めて気づいた私が、恐怖のあまりうっかり側柱に叩きつけてしまった結果、木っ端みじんに砕け散ってしまった。両足の骨はガラスが割れるようにして外側に砕け、その周囲にあった肉と筋肉も粉々になった。 恐ろしい運命の結末を迎えたように聞こえるかもしれないが、親愛なる読者よ、今の私のような肉と骨を持つ生物になることが一体どんな気持ちを伴うのか、君には決して分からないだろう。肉体の脆さに関して私が持ち得た知識を、君が手に入れることは絶対にないのだから。マジカの理解に関して、ギルドにおいて道を究めたとされる者をも上回るレベルまで私は到達したのだが、その偉業でさえ、この経験が私に授けた重大な発見の前ではかすんでしまうのだ。 君のような連中は、痛みは避けるべき物だと思っているだろう。身を隠し、恐れるべき物だと。苦しみと、その苦しみを感じる能力を私から奪っている無感覚とを通じて、私が君に言えるのはこういうことだ:痛みは、人間存在の単純因子である。それにより私たちは、感じる機会を与えられ、精神が占有している仮の殻を認識することができるのだ。痛みは、神が人間に与えた最高の贈り物だ。 そして今、書記の手を借りてこの物語を君に語っている私は、人間の残りかすであり、血がにじみ出た包帯に包まれた状態にあり、喜びを再び知ることはもう決してないだろう。それでもなお、君に一つのメッセージを伝えたい:あるがままの自分を受け入れるがいい。 シェオゴラス閣下に栄光を。彼のおかげで私は目覚めたのだから。 SI 茶3 魔法学・薬学
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/196.html
タララ王女の謎 第5巻 メラ・リキス 著 「何の権利を持って父を拘束するのですか?」ジリア夫人は叫んだ。「彼が何をしたと言うの?」 「私はインペリアル司令官、および大使として、カムローンの王者、オロインの元デュークを拘束する」ストレイク卿は言った。「地方の貴族権限のすべてに優先するタムリエルの皇帝の秩序権限に基づいて」 ジーナは前に進みジリアの腕に手を添えようと試みたが、冷たく突き返された。彼女は、今は誰もいない謁見室の玉座の前に、静かに座り込んだ。 「完全に記憶を取り戻したこの若い女性が私のもとを訪れてきたのだが、彼女の話は信じ難いを超越していた、単純に信じられなかったのだ」と、ストレイク卿は話した。「しかし、彼女は確信していたので、私も調査してみるしかなかった。その話に多少なりとも真実性があるか、20年前、この王宮にいた全員と話した。当然、王者と女王が殺害され、王女が失そうしたときは完全な取り調べが行われたが、今回は違う質問があった。その質問とは、2人の従姉妹、ジリア・レイズ夫人と王女の関係だ」 「何度も何度もみんなに言いました、人生で、あの時期だけ何も覚えていないのです」と、涙を浮かべながらジリアは言った。 「それは分かっている。あなたが恐ろしい凶行を目撃し、あなたと彼女の記憶が消えたことは一度も疑ったことがないし」ストレイル卿はジーナを手招きしながら言った。「疑う余地もない。王宮の召使いや他の人たちから、少女たちは密接な間柄だったと聞いた。他に遊ぶ友達もいなく、王女は常に親のそばに居なければいけなかったので、幼い頃のジリア夫人もそのすぐそばにいた。暗殺者が王族を殺しに来たとき、王者と女王は寝室に、そして少女らは謁見室にいた」 「記憶が戻ったときは、まるで封印された箱を開けたようだったわ」と、ジーナは厳かに言った。「20年前ではなく、昨日起きた出来事のようにすべてが鮮明で詳細だったの。私は玉座に座って女帝を演じていて、あなたは演壇の裏に隠れて、私があなたを投獄した地下牢に入れられているフリをしていたの。血まみれの刀をもった知らない男が、部屋に王の寝室から飛び込んできたわ。私に向かってきたから必死で逃げたの。演壇に向かって走り始めたのを覚えているけど、あなたの恐怖で凍りついた顔が見えて、彼をあなたに導きたくなかったわ。だから、窓に向かって走ったの」 「前、一緒にふざけて城壁を登ったことがあったわね、あの崖にしがみついている姿が、一番初めに戻ってきた記憶だったわ。あなたと私が城壁に登って、下から王が降り方を言ってくれたわね。でも、あの日は、あまりにも震えていて、つかまっていられなかったの。私は落ちて、川に着水したの」 「目撃した恐怖のせいか、それとも落下した衝撃と水の冷たさが折り重なってかは分からないけど、頭の中が真っ白になったの。かなり離れた場所でようやく川から自分を引っ張り出したとき、自分が誰だか分からなかったわ。それがそのまま続いたの」ジーナは笑った。「今まではね」 「では、あなたがタララ王女なのですか?」と、ジリアは叫んだ。 「私が混乱したように、単に結果だけを言ってしまうとあなたも混乱してしまうので、その問いに彼女が答える前に、もうちょっと私に説明をさせてもらおう」ストレイル卿が言った。「暗殺者は王宮から逃げられる前に捕まった── 実のところ、捕まると分かっていたはずだ。彼は即座に王族を殺害したことを認めた。彼が言うに、王女は窓から投げ出して殺したと。下に居た召使いが悲鳴を聞き、何かが窓の前を飛び落ちていくのを見ているので、彼はそれが事実であると知っていた」 「子守り役のラムクによって演壇の裏に隠れていた幼いジリア夫人が、恐怖で震えながら喋れずに、誇りまみれで発見されるまで数時間かかった。ラムクはとてもあなたのことを注意深く守っていた」ストラルはジリアに向かってうなずきながら語った。「彼女は、即刻あなたを部屋へ連れて行くよう主張して、オロインのデュークへ、王族が殺害され、彼の娘が殺人を目撃したが生き延びたとの伝言を走らせた」 「そのことは、少しだけ思い出してきました」と、不思議そうにジリアは言った。「ラムクに慰められながらベッドで横になっていたのを覚えています。すごく混乱していて、集中できなかったのです。なぜかは分かりませんが、ずっとお遊びの時間であって欲しいと思っていたのを覚えています。そして、荷物をまとめられて、養育院へ連れられて行かれたのを覚えています」 「もうすぐすべて思い出すわ」ジーナは微笑んだ。「保証するわ。それが思い出し始めた方法よ。一つだけ詳細を掴んだら、すべてが流れこんできたの」 「それです」ジリアは失意で泣きだした。「混乱以外の何も覚えていません。いえ、連れ去られるとき、父が私のことを見てもくれなかったことも覚えています。そして、そのことも、他のことも気にしていなかったことを覚えています」 「皆にとって混迷期だった、特に少女たちにとっては。とりわけ、あなたたち二人が体験したような羽目にあった少女たちには……」と、同情してストレイル卿は言った。「私の理解では、ラムクからの伝言を聞いたデュークは、オロインの王宮を後にして、あなたがこの出来事から回復するまで私設療養所へ送るよう命じ、情報を引き出すために、私設衛兵とともに暗殺者の拷問に着手した。最初の自白をしたとき以降、デュークと私設衛兵以外は暗殺者を見ていなく、暗殺者が脱走しようとして殺されたとき、デュークと彼の衛兵以外誰も居なかったということを初めて聞いたとき、私はそれを重要視した」 「その場に居たことが分かっていたうちの一人、エリル卿と話をしたが、手にしている以上の証拠品を持っているように見せかけ、脅さなければならなかった。危険な作戦ではあったが、願っていたような反応が得られた。とうとう彼は、私が真実であると分かっていたことを自供した」 「暗殺者は……」ストレイル卿は中断し、そして仕方なくジリアの目を見て言った。「相続人の王女も含めて、王族を殺害するために、オロインのデュークによって雇われていたのだ。彼や子供たちに王冠が渡るように」 ジリアは驚き、ストレイル卿を見つめた。「私の父が──」 「暗殺者は、デュークが彼を拘留したら、すぐに報酬が支払われ、脱獄が準備されると言われていた。だが、この悪党は欲を出す場所を間違えて、ゴールドをもっと手に入れようとした。デュークは沈黙させてしまうほうが安上がりだと判断し、彼が事の真相を誰にも話せないように、その場で即刻殺してしまった」ストレイル卿は肩をすくめた。「たいした損失ではないな。それから数年後、幼児期の記憶が完全に欠如していることを除けば、少々動揺してはいるものの、普通に戻ったあなたが療養所から戻った。そしてその間に、オロインの元デュークは兄の変わりにカムローンの王者となっていた。容易くできたことではない」 「ええ」と、ジリアは静かに言った。「もの凄く忙しかったのだと思います。彼は再婚して、もう1人子供がいました。ラムク以外は誰も療養所へ見舞いにきませんでした」 「もし彼が見舞いにいって、あなたを見ていたら……」と、ジーナが言った。「この話はまったく違う展開になっていたかもね」 「どういう意味ですか?」と、ジリアは問いかけた。 「ここが一番驚くべきところだ」と、ストレイル卿が言った。「以前から、ジーナがタララ王女なのかどうかが問われていた。彼女の記憶が戻り、覚えていることを私に話してくれたとき、私はいくつかの証拠をつなぎ合わせた。これらの事実を考えてみよう」 「まったく違う人生を歩んできたあなたたち2人は20年後の今も著しく似ているし、変わらぬ遊び友達、そして少女だったあなたたちは瓜二つだった」 「暗殺のとき、そこに行ったことがなかった暗殺者は、玉座の上に1人の少女しか見ておらず、彼はその子を獲物と思いこんだ」 「ジリア夫人を見つけだしたのは不安定な精神の持ち主で、自分の役目に狂信的な愛着をもっていた子守り役のラムクだった── その種の人は、自分が愛してやまない少女が、行方不明になったほうかもしれないという可能性を絶対に受けいれない。子守り役はあなたを療養所で見舞った、タララ王女とジリア夫人の2人を知る唯一の人物だった」 「最後に」と、ストレイル卿は言い放った。「あなたが宮廷に戻ったとき、5年間がすぎていて、あなたは子供から若い女性へと育っていた事実を考えてもらおう。見覚えはあるが、あなたの家族が覚えているあなたとは完全に一致しない、もっともなことではある」 「理解できません」可哀想な女性は目を見開いて叫んだ。だが、理解できていた。彼女の記憶はひどい洪水のように流れ、集まっていた。 「こう説明するわ……」彼女の従姉妹は腕で包みながら言った。「今は自分が誰なのかわかるわ。私の本名はジリア・レイズ。拘束された男は私の父親、王者を殺した男── あなたの父を。あなたがタララ王女なのよ」 物語(歴史小説) 赤3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/140.html
黒い矢 第1巻 ゴージック・グィネ 著 ウォダの女公爵の夏の邸宅地に召使いとして雇われた時、私はまだ若かった。それまで貴族の称号を持った人たちと接する機会など、ほとんど無かった。エルデン・ルートには豪商、貿易商、外交官、それに役人たちが大きな事業や娯楽のための派手な邸宅を持っていたが、私の親族は彼らのような社交界の人たちとはまったく無縁だった。 大人になっても手伝う家業はなかった。そんな折にいとこから、遠く離れた地所で召使い募集の噂話を聞いた。そんなに遠くでは志願者も少ないだろうと思い、私はヴァレンウッドのジャングルをひたすら歩いて向かった。歩いて5日がたとうとするころ、同じ方向へ向かう騎馬の一群と出会った。ボズマーの男が3人に同じくボズマーの女が1人、ブレトンの女が2人、ブレトンの女が2人、ダンマーの男が1人。皆そろって冒険者の身なりであった。 「あなたもモリヴァにいくの?」そう聞いてきたのはブレトンのプロリッサだった。それから私たちは互いに自己紹介をした。 「そこかどうか分からない」と私は答えた。「ウォダの女公爵のところで仕事があると聞いて向かってるんだけど」 「それなら近くまで連れて行ってあげるよ」ダンマーのミッソン・エイキンがそう言うと、私を馬の背に引っ張り上げてくれた。「でも、モリヴァに戻る学生たちに送ってもらったなんてことは女公爵には絶対に言わないほうがいいよ。雇ってもらえなくなるかもしれない」 馬に乗っている間、エイキンは自分の身の上話を聞かせてくれた。モリヴァは女公爵の地所から一番近くにある村で、そこにすばらしい腕前の有名な弓の使い手がいるとのことだった。長年の軍隊生活のあと、そこで隠遁生活を送っていた。彼の名はヒオメイスト。引退したにも関わらず、弓術を学びたいと訪れる生徒を受け入れていた。そのうち、偉大なる教師がいるとの噂が広まり、彼の元をたずねる生徒があとを絶たなくなった。ブレトンの2人はハイ・ロックの西地区からやって来たと言う。エイキンもモロウウィンドの大火山近くにある故郷からはるばる大陸を渡って来たのだ。彼は故郷から持ってきたという漆黒の矢を見せてくれた。私はこれほど見事な黒を見たことがなかった。 「聞くところによれば……」とボズマーのコペールが言った。「女公爵は元は帝都の人間だったが、帝都が成立する前に家族全員でこの地に移り住んだらしい。そうすると、彼女もすっかりこのヴァレンウッドの地に慣れ親しんでいると思うだろ? ところが実際はそうでもないらしい。この村とその弓学校を嫌っているそうだ」 「彼女はジャングルの中の交通網でさえ、支配下におさめようとしてるのよ」と言ってプロリッサは笑った。 情報をもらって礼を言いながらも、その偏屈そうな女公爵に初めて会う日がだんだん恐ろしく思えてきた。木々の間から初めて邸宅が見えた時でさえ、心の不安は何一つ晴れなかった。 それはかつて、ヴァレンウッドで見たことのないような建物であった。石と鉄とが組み合わさってできたその巨大な邸宅には巨獣の顎のように尖らせた胸壁が並んでいた。邸宅近くにあった木のほとんどが、ずいぶん前に切り倒されたようであった。その当時はひと悶着起こったであろうが、女公爵はバズマーの農民など恐れていなかったようだ。邸宅は木々に変わって灰緑色の堀で囲まれていた。それはまるで人口の島のようにも見えた。このような光景は、ハイ・ロックや帝都からもたらされたタペストリーの図柄で見たことはあっても、故郷では決して目にしないものであった。 「門のところには門兵がいるようだから、このへんでそろそろお別れだ」と言いながら、エイキンは馬をとめた。「ここまで私たちと一緒に来たことは内緒だよ」 私は彼らに礼を言って、彼らの弓術の腕前が上がるよう幸福を祈った。彼らは馬を進ませ、私は歩き始めた。すぐに正門のところへ着き、気づくとそこは厳重にも頑丈そうな警備がしかれた高い柵があった。門兵に召使いの仕事を探しにきたことを告げると中へ通してくれ、門兵は先に広がる芝生の反対側にいるもう1人の門兵に指示を出し、跳ね橋を下ろして渡らせてくれた。 最後の警備網、正門にたどりついた。門の上には巨大な鉄製のウォダ公の紋章がかかげられていた。その上にはさらに鉄片で強化されており、金であしらわれた鍵穴が1つあった。門兵がドアを開けてくれ、灰色の石材で積み上げられた、陰鬱かつ巨大な邸宅内へと招きいれてくれた。 女公爵とは客間で挨拶を交わした。彼女は爬虫類のように痩せて、皺だらけだった。この時はシンプルな赤色のガウンを着ていた。彼女は決して笑顔を作る努力をしない人であることは明らかだった。面接の質問はたった一つだった。 「帝都貴族に雇われた若い召使いの仕事とは?」と聞く彼女の声はしなびた革のようであった。 「わかりません」 「そう。これまで見てきた召使いたちは自分に何が求められてるかなんてまったく知らなかったわ。仮に知っていると答えたとしても、私、そんな召使いは気に入らない。あなた合格よ」 邸宅内での生活にはたいして楽しみもなかったが、一番下っ端の召使いの仕事はそれほどきつくはなかった。女公爵の留守番以外にすることがほとんどなかったのである。暇な時は2マイルほど歩いてモリヴァまで行った。ヴァレンウッドの同じような村でもそうだが、この村でも特別変わった出来事は起こらなかった。だが、近くの丘陵斜面にはヒオメイストの弓術学校があり、時々お弁当をこしらえて、練習を見にいった。 プロリッサとエイキンとは練習のあと会うようになった。エイキンの話す会話のテーマはもっぱら弓術に終始した。彼のことは好きだったが、プロリッサのほうが魅力ある人にうつった。美しいブレトンだったからではなく、彼女はどうやら弓以外の世界にも興味があるようだったからだ。 「小さい頃にハイ・ロックでクイルサーカスを見たわ」ある時、森を歩きながら彼女はこう話し出した。「老いも若きも知っているほど長いことやっているわ。あなたももし機会があれば、是非見にいくといいわ。芝居あり、余興あり、あっと驚く曲芸や弓芸も見られるわ。私もいつかは腕を磨いて、あのサーカス団に加わることが夢なの」 「いつ腕が磨かれたかなんてどうやってわかるんだ?」と私は尋ねた。 その問いかけに対して、彼女からの返事はなかった。振り向くとそこに彼女の姿はなかった。周りを見渡しながら困惑していると、頭上の木のあたりから笑い声が聞こえてきた。彼女は枝の上に立ち、にっこりと微笑んでいた。 「私は弓の使い手としてじゃなく、できれば曲芸師として参加したいの」と彼女は言った。「もしくはその両方ね。ヴァレンウッドは学びの場としてもっとも適した場所よ。ここの森にも教えを請うべき偉大な先生たちがたくさんいるわ。たとえば猿人とかね」 彼女は一旦体をかがめ、左足で踏ん張り、右方向へ飛びはねたかと思うと、さっそうと別の枝へと移っていた。彼女に話しかけ続けるのは大変だった。 「それってイムガのことかい?」と私はどもりながら言った。「そんな高いところにいて、怖くない?」 「平気よ」と彼女は言いながら、さらに高い枝へと飛び移っていく。「秘訣はね、下を見ないこと」 「降りてこない?」 「そのうちね」と彼女は言った。今や地上から30フィートの高さにいる彼女は、バランスをとるように腕を伸ばし、細い枝の上を歩く。そして、道の向こう側にかろうじて見えるほどの門を指差し、「この木から女公爵の邸宅に手が届きそうだわ」 彼女が枝から飛び降りたその瞬間、私はハッと息をのんだ。彼女は宙返りをしながら、膝をやや曲げて見事に着地して、「これも技の1つよ」と言った。私は、あなたならきっとクイルサーカスの花形団員になれると激励した。もちろん、今でならそんな未来は訪れないことを知ってる。 その日は早めに邸宅に戻らなければいけないことを思い出した。私にはめったに仕事がないのだが、女公爵に来客がある時は邸宅内にいなければならなかった。それもたいした仕事ではなく、晩餐の間、気をつけの姿勢で立っているだけであった。目の前を執事や給仕係が忙しなく料理を運び込み、空いたお皿があれば下げていく。しかし召使いの私は、この部屋では形式ばったただのお飾りとなるのであった。 しかし、少なくとも私はそこで、その後起こるドラマの─観客となった。 赤3 随筆・ルポルタージュ
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/69.html
仮説上の欺まん ─幕物 アンシル・モルヴァー 著 登場人物 マルヴァシアン:ハイエルフ魔闘士 インゾリア:ダークエルフ魔闘士 ドルチェタス:シロディール治癒師 シアヴァス:アルゴニアン蛮族 ゴースト 山賊数名 場面: エルデンウッド 幕が上がると、霧が立ち込めた迷路のようなヴァレンウッドの伝説的なエルデングローブの地形が見える。周囲ではウルフたちが吠えているのが聞こえる。血まみれのは虫類の姿をしたシネヴァスが木の枝の間から現れ、周囲を見渡す。 シアヴァス: 邪魔はない。 インゾリア、美しいダークエルフ魔術師が蛮族に手伝われて木から下りてきた。近くに足音がする。シアヴァスは彼の剣を構え、インゾリアは呪文詠唱の準備をした。何も現れなかった。 インゾリア: 出血しているわ。ドルチェタスに治癒してもらったほうがいいわ。 シアヴァス: 彼はまだ洞窟で唱えた多くの呪文で疲れ果てている。俺は大丈夫だ。もしここから出られて、他に俺よりも必要な人がいなければ、最後の回復の薬をもらう。マルヴァシアンはどこだ? マルヴァシアン、ハイエルフ魔闘士とドルチェタス、シロディール治癒師が木から重そうな宝箱を2人で抱えながら現れた。彼らは略奪品を運びながら、ぎこちなく木から下りようとした。 マルヴァシアン: きたよ。何で私が重い荷物を運んでいるのかはサッパリ分からないけどね。蛮族と一緒に洞窟探査に行く利点は、彼が戦利品を持ち運ぶからだといつも思っていたのにさ。 シアヴァス: もし俺がそれを運んだら、手がいっぱいで戦えないだろう。それに、もし間違っていたら言って欲しいんだが、おまえら3人のうち、誰1人としてここから生きて出られるほどのマジカを残していないだろう。地下であの数の小人を感電させて、吹き飛ばした後ではな。 ドルチェタス: 小人たちですね。 シアヴァス: 心配しなくても、俺はおまえらが思っているようなことはしない。 インゾリア(純粋そうに): 何のこと? シアヴァス: おまえらを全員殺して、黒檀の鎧をいただくことさ。正直に言えよ── 俺がそう考えていると思ったんだろう。 ドルチェタス: 恐ろしいことを考える。どれほど卑しく、堕落した人間でもそんなことを── インゾリア: なぜ、やらないの? マルヴァシアン: 運び手が必要だからさ、さっきも言ってたじゃないか。宝箱を運び、エルデングローブの住民と戦うのは無理だからな。 ドルチェタス: ああ、ステンダールの神よ、意地悪く、自己中心的で、典型的なアルゴニアンの中でもあんたは── インゾリア: それで、なぜ私に生きていて欲しいの? シアヴァス: 必ずしも生きていて欲しいわけではない。ただ、あんたは他の2人よりも可愛いから、ツル肌にしてはな。それに、何かに追いかけられたら、先にあんたを狙うかもしれないしな。 近くの茂みの中から物音がする。 シアヴァス: 見てこい。 インゾリア: きっとウルフよ。この森にはいっぱいいるもの。見てきて。 シアヴァス: インゾリア、選択肢があるぞ。見に行けば、生きられるかもしれない。ここに残れば、間違いなく生きてはいられない。 インゾリアはしばし考え、それから茂みへと向かう。 シアヴァス(マルヴァシアンとドルチェタスに向かって): シルヴェナールの王者はこの鎧にたんまり金を出すと思うぜ。それに、4人より3人で分けたほうが気持ちいい。 インゾリア: そのとおりね。 インゾリアが突然舞台上に浮揚する。半透明のゴーストが茂みから現れ、一番近くにいる者、シアヴァスに向かっていく。蛮族が悲鳴をあげ、剣でそれを突き刺す中、ゴーストは渦を巻く気体を彼に吹きかけ、彼は地に崩れ落ちる。次にドルチェタス治癒師のほうを向き、ゴーストが哀れなドルチェタスに冷気を見舞う中、マルヴァシアンが炎の玉を唱え、ゴーストは蒸発して霧の中へと消えていく。 マルヴァシアンが、ゴーストの低下能力により顔を蒼白にしているドルチェタスやシアヴァスの体を調べていると、インゾリアが地上に下りてきた。 マルヴァシアン: 結局、多少はマジカを温存していたんだね。 いんぞりあ:あなたもね。彼らは死んでいるの? マルヴァシアンは、回復の薬をドルチェタスの袋の中から取り出す。 マルヴァシアン: ああ。幸いにも彼が倒れたとき、回復の薬は壊れなかった。さて、これで報酬を受け取れるのは2人だけになったみたいだね。 インゾリア: お互いに協力しなかったら、ここからは出られないわ。好むと好まざるとに関わらずね。 二人の魔闘士は宝箱を持ち上げ、下生えの中を慎重に歩き出す。何者かの足音やその他の不気味な音に時折、足を止める。 マルヴァシアン: 理解しているかを確認させてほしい。あなたには少しばかりのマジカが残っていたので、それを使ってシアヴァスをゴーストの最初の餌食にすることを選び、私があなたより強力にならないように、私の限られた蓄えを使わせてゴーストを追い払わせた。一流の考え方だね。 インゾリア: ありがとう。道理にかなっていただけよ。他に呪文を唱える力は残っているの? マルヴァシアン: 当然。このようなときのために、経験を積んだ魔闘士は必ず小さくても非常に効果的な呪文をいくつかは知っているものだよ。あなたもいくつか切り札を持っているんでしょう? インゾリア: もちろん、あなたが言ったようにね。 恐ろしい泣き声が空気を切り裂き、一旦止まる。それが消えてなくなると、重い足取りで再び歩き始める。 インゾリア: ただの知的訓練として、もしこれ以上の戦闘もなくここから出られたとしたら、あなたは私にどのような呪文をかけるのかしら。 マルヴァシアン: まさか、暗に宝を独り占めするために、私があなたを殺そうと思っていると言いたいわけじゃないよね? インゾリア: もちろん違うし、私もあなたにそんなことをしようと思っていないわ。ただの知的訓練よ。 マルヴァシアン: なるほど、それでは単純に知的訓練として、私はおそらくあなたの生命力を奪い、自分を治癒するために体力奪取の呪文をかけるね。結局、ここからシルヴェナールまでの道中には山賊がたくさんいて、貴重な秘宝を持った手負いの魔闘士は魅力的な獲物だろうしね。ただ単に野原で死ぬために、エルデングローブを生き抜くのはごめんだよ。 インゾリア: 理にかなった返答ね。私としては、何度も言うようにこのようなことをしようとは思ってもいないけれど、突然の雷撃で十分役目を果たせると思うわ。山賊に関しての意見は同じだけれど、回復の薬があるのを忘れないで。ごく簡単にあなたを殺して、自分を完治出来るわ。 マルヴァシアン: 言うとおりだね。そうすると、最終的な疑問は、その瞬間にどっちの呪文の効果のほうが高かったかっていうことになる。もしお互いの呪文が反作用して、結局私があなたの生命力を奪い、あなたの雷撃で活動不能になったら、2人とも死んでしまうかもしれない。または、あまりの瀕死状態で、単なる回復の薬では2人ともはおろか、どちらか1人の助けにもならなくなる。もし2人の画策する魔闘士が、画策していると言っているのではなく、この知的訓練のためにね、死に直面し、マジカも枯渇し、1本だけしか回復の薬がなかったとしたら、どれだけ皮肉なことか。その場合、誰が手に入れる? インゾリア: 必然的に先に飲んだほうでしょうね。この場合、持っているのだからあなたになるわね。じゃあ、もし私たちのうち1人だけが傷ついたけれど、死ななかった場合は? マルヴァシアン: 論理に従うと、画策する魔闘士が薬を取り、傷ついたほうを精霊の慈悲に任せて立ち去るんじゃないかな。 インゾリア: それが最も賢明に見えるわね。でも、画策するような類ではあるものの、その魔闘士たちがお互いにある程度の敬意を持っていたらと仮定してみて。その場合、例えば、ひどく怪我をした相手の近くにある木の上に、勝者が薬を置くとか。そして、怪我をしたほうが十分なマジカを補充できたとき、彼または彼女は木の枝まで浮揚して薬を回収できる。その頃には勝った魔闘士がすでに報酬を受け取っているでしょうね。 近くの茂みから聞こえてくる音に一瞬、足を止める。慎重に木の枝に登り、その場を凌ぐ。 マルヴァシアン: 何を言いたいかはわかるけど、被害者を生かすなんて、私たちが仮説をたてるような画策する魔闘士には柄にもないことに見えるけど。 インゾリア: そうかもしれないわね。でも私の観察では、多くの画策する魔闘士は誰かに勝ち、屈辱を耐えさせるためにその人を生かしておく感覚を楽しむわ。 マルヴァシアン: この仮説上の画策する魔闘士って…… (興奮して)太陽の光だ! 見える? 二人は枝の上を素早く渡り、茂みの裏に落ち、舞台から姿を消す。一方で、キラキラと光る日光の光輪が見える。 マルヴァシアン(背の高い茂みの後ろ): 出られた。 インゾリア(同じく、背の高い茂みの後ろ):確かに。 突然、電気の爆発と凄まじい赤い光のオーラが発生する。辺りは沈黙に包まれる。しばらくして、何者かが木に登る音が聞こえてくる。それは、高いところにある枝の上に薬を置くマルヴァシアンである。含み笑いをもらしながら木から下り、幕が下りる。 エピローグ シルヴェナールへの道中で幕が上がる。山賊の一味が杖に寄りかかり、辛うじて立っているマルヴァシアンを囲み、簡単に宝箱を彼から引き離す。 山賊 #1: なんだこりゃ?そんな病気で道をぶらつくのは危ねえって知らねえのか?ほら、荷物を運ぶのを手伝ってやるよ。 マルヴァシアン(弱って): お願いだ…… 放っておいてくれ…… 山賊 #2: どうした、術者さんよ、奪い返してみろよ! マルヴァシアン: 無理だ…… 弱りすぎている…… 突然インゾリアが飛び入り、雷撃を指先から山賊へと放ち、その山賊たちは急いで逃げていく。彼女は着地して、宝箱を拾い上げる。マルヴァシアンは死にそうに倒れこむ。 マルヴァシアン: 仮定で、もしも…… 魔闘士がその場では彼を傷つけず…… 生命力とマジカを徐々に流出させ、その場では気がつかないが…… 回復の薬を置いていくほど十分な自信を感じる呪文を相手にかけたとしたら? インゾリア: 彼女は最も不実な魔闘士でしょうね。 マルヴァシアン: そして…… 仮定で…… 彼女は、彼が生きて屈辱に耐えているのを楽しむために、倒れた相手を…… 助けそうか? インゾリア: 私の経験上、仮定で、いいえ。彼女は間抜けではなさそうだし。 インゾリアが宝箱をシルヴェナールへと引き寄せる。マルヴァシアンは舞台上で息を引き取る中、幕が下りる。 物語(戯曲) 茶3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/168.html
ウィザーシンズ ヤクート・タワシ 著 「あの…… どうしてずっと黙っているの?」カザガは言った。 ザキはハチミツ酒のカップを置き、少しの間妻の顔を見つめた。そして、いかにも嫌々という感じで言った。「言ったろ、あいうえお順にしかしゃべれないからだ。やめるには、最初から黙ってるしかないんだ」 カザガは我慢強く語りかけた。「うーん、ねえ、ちょっと考えすぎじゃない? あなたが偏執狂みたいな妄想にとらわれるのはこれが初めてじゃないでしょう。このあいだなんか、ブラック・マーシュの帝都軍の魔闘士が木の陰からあなたを狙ってるなんて言ってきかなかったじゃない。あなたのような中年の、太った、はげた仕立て屋を性奴隷にするためにですって? あのね、恥ずかしいことじゃないのよ、でもシェオゴラスに頭をやられちゃった人はそういうふうになるものなのよ。だから、治癒師のところへ行って──」 「偉そうにグダグダ言いやがって!」と、ザキは妻を怒鳴りつけ、家を飛び出し、ドアを力任せに閉めた。外に出たところで、ザキは隣人のシヤサットとぶつかりそうになった。 「お話の途中よ、まだ!」と、シヤサットは去って行くザキの背中に向かって言った。ザキは両手で耳をふさいだまま通りを走り抜け、彼の職場である仕立て屋へ向かった。最初の客が、店の前でにこにこして彼を待っていた。ザキはいらいらする気持ちをおさえつけ、鍵を取り出して店を開けると、客の方へ振り向いた。 「からっとした、いいお天気ですね」と、客の若い男が言った。 「貴様!」とザキは怒鳴り、強烈なパンチで客の男をぶっ飛ばしてから勢いよく走り去った。 カザガの言うことを認めたくはなかったが、どうやらまた治癒師に薬草を調合してもらわなければならないらしかった。北に少し行ったところに、タルスの精神・肉体治癒の神殿の特徴的な塔があった。薬草師長のハルクァが、入り口で彼を見つけて話しかけた。 「苦しそうなお顔ですね。どうなさいました、サ・ザキ・サフさん?」 「健康な人はここへは来ないでしょう。タルス先生の診療の予約をしたいんです」と、ザキはできるだけ冷静に言った。 「これからの先生の予定を確認してみますので、少しお待ちください」ハルクァはそう言って、巻物を見た。「緊急ですか?」 「さあ、そうですね」と言ってから、ザキは自分の頭を叩いた。どうして「はい」と言わないんだ? 実際、明らかに緊急じゃないか。 「診察は……」ハルクァは、顔をしかめた。「どんなに早くても、来週の水曜日です。それでもよろしいですか?」 「水曜日!」と、ザキは叫んだ。「それまでに、どんどんおかしくなっていきますよ。もうすこし早くなりませんか?」 聞く前からわかっていた。彼女は「はい」とは答えない。「はい」と言わせるには、は行まで会話を続けなくてはいけないのだ。 「先生はお忙しいので……」と、ハルクァは答えた。「それより早くは無理です。すみません。水曜日でいかがですか?」 ザキは歯ぎしりしながら神殿を出た。通りをさまよい、誰とも話さないように下を向いて歩き続けていると、いつのまにか波止場まで来ていた。心地よいそよ風が水面を渡ってきて、深呼吸をすると、正気を取り戻せたような気がした。少し落ち着いて、彼は考え始めた。もし、この「あいうえお順の会話」が、妄想じゃなかったとしたら? 彼が偏執狂なのではなくて、まわりが実際におかしくなっていて、彼だけがそれに気づいているのだとしたら? それが正気を失った人たちにありがちな悩みだとわかっていても、考えずにいられなかった。おかしいのは自分なのか、それとも、まわりの人々なのか? 通りの向こうに、パラ・ドクスという店があった。ショーウィンドウに薬草や水晶、何かの気体を閉じ込めたガラス球などが飾られ、看板には「霊能相談・日の出から正午まで」と書かれている。怪しいが試してみる価値はあると、ザキは思った。普通、治癒を求めて波止場まで来るような人間は、普通の方法を知らずにどうしていいかわからなくなってしまった馬鹿者だけなのだが。 店内はピンクや金の香の煙が立ちこめ、そのむこうに様々なものが雑然と置かれているのが見えた。壁に掛けられたジジックのデスマスクがこちらを睨みつけ、天井からは香炉が鎖で吊り下げられていた。本棚がところ狭しと置かれ、まるで迷路のようだった。店の奥の古ぼけた机に小さな男が座っており、客の若い女が買ったものを紙に書きつけているところだった。 「それじゃ……」と、その男は言った。「57ゴールドいただきましょうか。うろこ用の回復クリームはおまけしときますよ。邪悪なゴロフロックスに願い事を言う前に、このロウソクを灯すことを忘れないで。それから、マンドレイクの根は直射日光を当てないようにしてくださいね」 客の女は、ザキに少しだけほほえみかけ、店を出て行った。 「助けてください」と、ザキは男に言った。「会話が全部、あいうえお順にしか進まないんです。自分の頭が変なのか、なにか変な力が働いてそうなってるのか、とにかくまったくわからないんです。正直いって、こういう霊能とかそういったものは信じてないのですが、藁をも掴みたい気分なんです。この妄想をなんとかしてもらえませんか?」 「ちっとも珍しいことじゃありませんよ」と、男はザキの腕をなでて言った。「50音を最後の「ん」まで行ったら、また『あ』に戻るんですか、それとも、『わ』に戻るんですか?」 「つまりそれは…… 逆向きに進んでいくんです」と、ザキは言った。が、そこではっとした。「いや、間違いました! 『あ』に戻るんです。ああ…… これからもこれがずっと続くのかと思うと、まるで拷問です。霊を呼び出して、私の頭がおかしいのか見てもらえませんか?」 「テリキさん」男はほほえみ、安心させるような調子で言った。「その必要はありませんよ。あなたは正常です」 「どうもありがとう」と、言いながらザキは顔をしかめた。「でも、私の名前はザキです。テリキじゃなくて」 「名前をまだ聞いてませんでしたからね。あてずっぽうにしては近かったでしょ?」そう言って男は、ザキの背中を叩いた。「ちなみに私はオクトプラズムといいます。こちらへどうぞ、ちょうどいいものがありますから」 オクトプラズムは、ザキを机のむこうの狭い廊下へ案内した。廊下の両側の棚には、液体に漬けられた奇妙な生き物がたくさん並んでいた。その先には古い石が山のように積まれており、さらに、カビだらけの皮の表紙の本がいたるところに積み重なっていた。その先が、店の中心部らしかった。そこでオクトプラズムは、ずんぐりした円柱形の小さな筒と本を手に取り、ザキに渡した。 「『肉体的・精神的な吸血病』、『デイドラ憑依』、「ウィザーシンズ療法』?」本をぱらぱらとめくりながら、ザキはがっかりして言った。「いったいぜんたい、何の関係があるっていうんですか? 私は吸血鬼じゃない、こんな日に焼けた吸血鬼はいないでしょう。それに、このウィザーシンズ療法って何ですか? いんちきな霊能療法で、すごく高い治療代を騙し取るつもりじゃないでしょうね?」 「濡れ衣ですよ。ウィザーシンズ療法というのは、古シロディール語の『反転』を意味する『ウィザーサインズ』という言葉からくる由緒ある治療法なんです。反転療法とでもいいましょうか」オクトプラズムが真剣な調子で言った。「物事の順序を逆にして、霊的な世界との交流を図るというものです。それによって呪いを解いたり、吸血病を治療したり、他の様々な忌まわしいものをしりぞけたりするのですよ。あの話があるでしょう、スローターフィッシュが熱湯の中に住んでいると聞いた男が、『それなら、氷水に入れてやったら煮えて死ぬだろう』と言ったという話」 「『熱する氷』の話ですね、それを言ったのはゼノファスですよ」ザキはすぐにその話の題名を思い出した。彼の兄が31年前に帝都学校で難解な哲学の講義を受けていて、ゼノファスのことも彼に話してくれたのだ。題名を口にしてから、ザキはそんなこと思い出さなければよかったと思った。「それで、この変な筒は何なんです?」 オクトプラズムはろうそくを灯し、その上に筒をかざしてよく見えるようにした。筒の側面にはたくさんの切れ込みが入れられていて、ザキが覗き込むと古い白黒の絵が見えた。何枚もの連続した絵があり、裸の男が箱を飛び越える様子が描かれていた。 「覗きながら、こうやって回すのですよ」オクトプラズムはゆっくりと、時計回りに筒を回してみせた。絵に描かれた男が動き出し、箱をいくつも飛び越えてゆくのが見えた。「ゾーエトロープっていうんですよ。面白いでしょう? さあ、こんどは反時計回りに回してみてください。そして、回しながら、この本のこの印の部分を唱えるんです」 ザキはゾーエトロープを持って、ろうそくの上で反時計回りに回し始めた。絵の中の男が、後ろ向きに一つまた一つと箱を飛び越えた。一定の速さで回すのには注意力と集中力がいったが、最初はぎくしゃくしていた絵の中の男の動きがだんだんと滑らかになっていった。もう、一つ一つの絵ではなく、連続した動きにしか見えなかった。まるで、人間の形をしたハムスターが回し車の中を後ろ向きに走り続けているようだった。片手でゾーエトロープを回しながら、ザキはもう一方の手で本を持ち、印のつけられた文章を声に出して読んだ。 「反対まわり、ゾーエトロープよ/このわだちから出してください/女神ボエシア、キナレス、それにドリシスよ/人知を超えた苦しみから救ってください/無意味で退屈かもしれないこの世/それでも正気を失いたくはない/反対にしてもとに戻してください/反対まわり、反対まわり、反対まわりのゾーエトロープよ」 呪文を唱えていると、絵の中の裸の男がどんどんザキに似てきた。口ひげが消え、頭もはげかかっている。体が太り、下腹が風船のようにふくれてきた。アルゴニアン特有のうろこが全身を覆っていた。箱を飛び越えたあとに転んだり、汗をかいて荒い息をつきさえした。ザキが呪文を唱え終わる頃には、絵の中の彼は胸をかきむしりながら箱の上を転がるようにして越え、そのまま落ちてしまうようになっていた。 オクトプラズムは、ザキの手からゾーエトロープと本を取った。何も変わっていないように見えた。稲妻がほとばしったり、翼のある蛇が頭から出てきたり、爆発が起こったり、そんなことは一切なかった。ただ、ザキは何かが違うと感じていた。それも、良いほうに。正常に戻れたのだった。 ザキが店のカウンターで財布を取り出すと、オクトプラズムは首を振った。「。んせまきいはにけわるす戴頂を費療治、でのんせまいてれさ認確だまが用作副な的期長、は治療荒ういうこ、がすでいなもでまるげ上し申」 数日にわたる悩みから解放されて、ザキは軽い足取りで後ろ向きに歩きながら、自分の店へ戻っていった。 小説・物語 緑1